「東京まで行かなくても展示会に参加できたら...」
「もっと費用対効果の高い展示会出展はできないか...」
「名刺交換だけで終わらない、実りある商談にするには...」
ビジネス展示会の担当者なら、こんな悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。
コロナ禍を経て、展示会のあり方は大きく変わりつつあります。当初は緊急対応だったオンライン展示会も、今や新たな可能性を秘めた選択肢として定着しつつあります。 特に注目を集めているのが、3D仮想空間を活用した「メタバース展示会」です。 距離の制約を超え、コストを抑えながら、より効果的なビジネスマッチングを実現するこの新しい展示会形式について、成功事例とともにご紹介します。
目次
「もっと多くの人に来てほしい」「コストを抑えたい」「成果につなげたい」――展示会を企画・運営する担当者なら、誰もが感じる悩みではないでしょうか。
展示会に行きたくても行けない理由の多くは「距離」です。
・東京開催なら大阪の人は新幹線代と宿泊費がかかる
・平日開催なら休みを取って移動する必要がある
・海外からの参加となると、さらにハードルは高い
展示会主催者への聞き取りによれば、「行きたい展示会に参加できなかった理由」としては「交通費・宿泊費の負担」や「移動時間が取れない」が上位を占めるようです。特に地方開催の展示会は、首都圏からの集客に苦戦することが多いと言われています。
展示会出展には、出展費用に加えて以下の費用がかかります。
・ブースデザイン、制作、設営、撤去まで一式で数百万円が当たり前
・スタッフの交通費・宿泊費・日当も侮れない金額に
・パンフレットやノベルティの制作費も必要
大規模な展示会になると、出展料だけでなく関連コストも含めると総額は数百万円に簡単に達してしまいます。このコスト問題は、特に予算の限られた中小企業にとっては深刻な課題となっています。
展示会でよくある光景です。
・「資料お送りします」と言ったきり、そのまま音沙汰なし
・どのブースに誰が来て、何に関心を持ったのか記録できていない
・名刺の山から優先順位をつけてフォローするのが大変
・そもそも本当に関心があった人なのか判断できない
展示会では多くの名刺交換が行われますが、実際に商談につながる割合は非常に低いと言われています。せっかく接点ができても、その後の効果的なフォローができなければ、時間とコストの無駄になってしまいます。
仮想空間を使った展示会は、従来のリアル展示会の限界を超える可能性を秘めています。特に注目したいのは次の5つのメリットです。
メタバース展示会の最大の魅力は、どこからでも参加できること。
・北海道の担当者も沖縄の担当者も同じ「距離」
・移動時間ゼロ、交通費ゼロ、宿泊費ゼロ
・忙しい人でも空き時間にサクッと参加可能
・海外からの参加者も時差だけ考慮すれば問題なし
実際に、あるIT業界の展示会では、メタバース開催にしたところ、従来より多くの参加があり、特に地方からの参加が増えたそうです。「行きたかったけど行けなかった」層を取り込めるのは大きなメリットです。
意外かもしれませんが、アバターを使うと人は話しやすくなります。
・「顔が見えない」ことで初対面の緊張感が減る
・質問やコメントがしやすい心理的安全性がある
・テキストチャットと音声を使い分けられる
・「話しかけづらい雰囲気の人」という先入観が減る
メタバース展示会の参加者からは「普段なら声をかけづらい相手にも質問しやすかった」という感想が多く聞かれます。特に日本人は対面でのコミュニケーションに緊張しがちですが、アバターを介すると不思議と会話が弾みやすくなるようです。
メタバース展示会の隠れた強みは、データが取れること。
・どのブースに何分滞在したかが記録される
・どの展示物に注目したかがわかる
・資料のダウンロード履歴も自動記録
・関心度の高い来場者を見分けられる
リアル展示会では「なんとなく人が多かった」という感覚的な評価しかできないことが多いですが、メタバースではデータに基づく精度の高い見込み客の発見が可能になります。訪問者の行動パターンを分析することで、より効果的なフォローアップの優先順位付けができるようになるのです。
メタバース展示会の大きな魅力はコスト削減効果です。
・会場費が不要(都市部の大型イベント会場なら数百万円のコスト削減)
・ブース設営・撤去の人件費削減
・スタッフの交通費・宿泊費がゼロに
・一度作った3Dブースは何度でも使い回せる
特に複数回出展する企業にとっては、2回目以降のコスト効率が大幅に向上します。初期投資はかかるものの、長期的に見れば大幅なコスト削減が期待できるでしょう。
メタバース展示会の魅力は、大規模なものだけでなく小規模な展示会にも適していることです。
・予算やスタッフが限られている中小企業でも開催可能
・特定の商品やサービスに特化した専門展示会が気軽に開催できる
・定期的な小規模イベントを複数回開催する「シリーズ化」も可能
・大企業の一部門や事業部単位での展示会も効果的
従来のリアル展示会では規模の経済が働き、小規模展示会は費用対効果の面で不利でしたが、メタバース空間ではこの制約が大幅に緩和されます。セミナーと展示の組み合わせや、製品発表会と少人数商談会の連携など、小回りの利く運営が可能になります。
メタバース展示会の可能性に早くから着目し、先駆的な取り組みを展開している企業の事例から、その効果と成功要因を探ります。
名古屋商工会議所若鯱会が令和6年度第1回研修会をメタバース空間で開催しました。従来のリアル会場から新たな形式へと移行したこの試みには、550名の会員のうち約150名が参加。「新しい試みで良かった」「これが当たり前の世の中になる」など、参加者からは好評の声が多く寄せられました。
京セラが2022年のJIMTOF開催に合わせ、メタバース上で「天空に浮いた巨大な飛行船」をテーマとした仮想展示会を実施しました。アバターの解説員が3Dで再現された工具を説明するこの取り組みは、同社が推進する"モノ売り"から"コト売り"への転換戦略の一環。顧客との距離が近くなり「短時間で仲良くなれる」というメリットが実証されました。
画像元:東証マネ部!
みずほ銀行がメタバース空間を活用し、スタートアップ企業と投資家・パートナー企業をつなぐ新しい形式の展示会を開催しました。従来の1対1のコミュニケーション中心から脱却し、参加者が自由にブースを巡回できる仮想空間を構築。この取り組みにより、来場者は気軽に複数の企業と交流できるだけでなく、出展企業とのリアルタイムな双方向コミュニケーションが実現されました。
画像元:株式会社ジクウ
参考:株式会社みずほ銀行
メタバース展示会は今後も進化を続け、さらに以下のような発展が期待されています
AIガイドによる最適ルート案内
「あなたの興味に合わせたブース巡り」が可能になります。AIが参加者のプロフィールや行動履歴を分析し、「次はこのブースがおすすめです」と案内するなど、効率的かつ発見性の高い展示会体験を実現できるでしょう。
自動通訳・翻訳機能
リアルタイム通訳技術により、言語の壁が完全に取り払われます。日本語で話しかけても相手には英語で聞こえる、資料をワンクリックで多言語化するなど、真のグローバルコミュニケーションが実現します。
行動予測に基づく先回りサポート
「この人はこの後、何に興味を持ちそうか」をAIが予測し、先回りして情報を提示します。関連製品の紹介や、よくある質問への回答準備など、参加者の次の行動を予測したサポートが可能になります。
リアル会場との同時接続
物理的な展示会場とメタバース空間が同時接続されるハイブリッド展示会が主流になるでしょう。リアル会場の様子をメタバースに中継したり、メタバース上のディスカッションをリアル会場のスクリーンに投影したりといった、双方向の連携が実現します。
XR技術の統合
AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった技術が統合され、状況に応じて最適な体験を提供できるようになります。たとえば自宅ではVRでの没入体験、外出先ではスマホを通したAR体験など、シームレスな体験が可能になります。
デジタル・フィジカル連動展示
実物の製品とデジタル情報が連動した新しい展示形態が生まれます。実物製品にスマホをかざすと詳細情報がAR表示される、メタバース内で見た製品がそのまま実物として注文できるなど、物理とデジタルの良さを組み合わせた体験が増えるでしょう。
デジタル資産を活用した参加特典
展示会の参加記念品や限定コンテンツがデジタル資産として提供されるようになります。「2025年春・メタバース展示会来場記念デジタルバッジ」といった特典が、将来的に特別な価値を持ったり、コレクション要素として楽しまれたりする可能性があります。
ポイント制度の導入
展示会参加や特定のアクションに対してポイントが付与され、それを使って特典を得られる仕組みが導入されるでしょう。セミナー参加でポイントを獲得、集めたポイントで特別コンテンツにアクセスするといった仕組みが形成されます。
コミュニティ主導による展示会運営
業界全体で共同運営する展示会モデルが登場するかもしれません。参加企業や来場者が運営に参画し、展示会の方向性や内容を共同決定するような、より民主的で開かれた運営形態が実現する可能性があります。
メタバース展示会は、単なるオンライン展示会の発展形ではなく、展示会そのものの可能性を広げる新たな選択肢です。距離の制約を超えた参加者の拡大、会話のしやすさによるコミュニケーションの活性化、データに基づく効率的なフォローアップ、そして長期的に見たコスト削減効果など、従来の展示会では得られなかった価値を提供します。
注目したいのは、大企業以上に、中小企業や小規模組織にとって大きなチャンスとなる点です。リアルの展示会では予算や人員の制約から出展を諦めていた組織でも、メタバース展示会なら少ないリソースで効果的なプロモーションが可能になります。小規模な専門展示会や、ニッチな市場向けの展示会も、コスト効率良く開催できるのです。
先駆的な取り組みを行っている企業の事例からも明らかなように、最も重要なのは「テクノロジーありき」ではなく「課題解決起点」でのアプローチです。「なぜメタバース展示会を行うのか」という目的を明確にし、それに合わせた設計を行うことが成功の鍵になります。
展示会担当者の皆様には、この新しい可能性をビジネスチャンスとして捉え、まずは小規模からでも試してみることをお勧めします。コロナ禍を契機に始まったこの変化は、もはや一時的なトレンドではなく、展示会の未来を形作る重要な要素となっています。メタバース展示会は、これからのビジネスコミュニケーションの新たな選択肢として、確実に定着していくでしょう。